大判例

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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)3312号 判決

原告(反訴被告)

丸山突男

訴訟代理人

蔦川殻

被告

株式会社宮下鉄工所

代表者特別選任代理人

渡辺粛郎

被告(反訴原告)兼

株式会社宮下鉄工所補助参加人

菱光産業株式会社

代表者

中島孚

訴訟代理人

高橋悦夫

主文

一  被告株式会社宮下鉄工所は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録記載の建物について、大阪法務局北出張所昭和四三年九月二〇日受付第二九三八六号所有権移転請求権仮登記に基づき、昭和四四年三月四日代物弁済を原因とする本登記手続をせよ。

二  被告(反訴原告)菱光産業株式会社は、右本登記手続をすることについて承諾せよ。

三  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用(補助参加の費用を含む)は本訴、反訴とも被告(反訴原告)菱光産業株式会社の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴)

一、原告(反訴被告、以下単に原告という)

主文第一、二項同旨および「訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決。

二、被告株式会社宮下鉄工所(以下単に被告宮下という)、被告(反訴原告)菱光産業株式会社(以下単に被告菱光という)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

(反訴)

一、被告菱光

原告は、被告菱光に対し、金一、九八九万五、一一一円と、これに対する昭和四四年九月四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

反訴費用は原告の負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

二、原告

被告菱光の反訴請求を棄却する。

反訴費用は同被告の負担とする。

との判決。

第二  当事者の事実上の主張

(本訴請求関係)

一、本訴請求の原因事実

(一) 原告は、被告宮下に対し、昭和四〇年九月三〇日金二〇〇万円を、同年一〇月二五日金八〇〇万円を、それぞれ貸し付けた。

(二) 被告宮下は、昭和四二年二月ころ、当庁に和議の申立てをしたところ、同年八月三日、債務額の三五パーセント分割払い、残余の六五パーセントと利息全額免除の条件で和議認可の決定が確定した。その結果、原告の被告宮下に対する前項記載の債権は、金三五〇万円になつた。

(三) 原告は、昭和四三年八月二一日、被告宮下との間で、右消費貸借上の債務を担保するため、同被告所有の別紙物件目録記載の建物について、右債務不履行のときは原告からの一方的完結の意思表示をもつて弁済に代えてその所有権を原告が取得することができる旨の代物弁済の予約をし、同年九月二〇日、大阪法務局北出張所受付第二九三八六号をもつて右代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続をすませた。

(四) 被告宮下は、右債務を履行しなかつたので、原告は、被告宮下に対し、昭和四四年三月四日到達の書面で、弁済を催告し、同書面到達後三日以内に弁済しないときは到達日をもつて前記代物弁済予約を完結する旨の意思表示をしたが、被告宮下は右支払催告に応じなかつたので、原告は、右到達日に本件建物の所有権を代物弁済によつて取得した。

(五) 被告菱光は、本件建物について、同出張所昭和四四年四月七日受付第一二〇六四号をもつて被告菱光のため仮差押登記をしているが、右登記は、仮登記により順位を保全されている原告の代物弁済による所有権取得に対抗し得ないものである。

(六) そこで、原告は、被告宮下に対しては、前記所有権移転請求権仮登記に基づき、代物弁済を原因とする所有権移転の本登記手続をすることを求め、被告菱光に対しては、右本登記手続をするについて承諾をすることを求める。〈以下略〉

理由

第一本訴請求についての判断

一本訴請求の原因事実は当事者間に争いがない。

二被告らの清算金支払いの抗弁について

(一)  〈証拠〉を総合すると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 上野商事は、昭和四三年九月二六日、債務者新宮下との間で締結された同月七日付手形取引契約及び金銭消費貸借契約を原因として、被告宮下から、同被告所有の本件建物に、元本極度額金三、〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同日、右根抵当権設定登記を経由した。

(2) 上野商事は、右契約より生じた債権金九、〇〇〇万円ないし金一億円を新宮下に対し有していた。

(3) また、阪口巧は、昭和四四年二月二一日、債務者新宮下との間で締結された同月一八日付継続的金銭消費貸借契約を原因として、被告宮下から、本件建物に、元本極度額金一、〇〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同日、右根抵当権設定登記を経由した。

(4) 阪口巧は、右契約に基づき、新宮下に対し金一、〇〇〇万円を貸しつけた。

(5) 原告は、本件代物弁済予約の完結に関連し、昭和四五年夏ころ、上野商事との間で、上野商事が被告宮下に有していた前記被担保債権額の極度額金三、〇〇〇万円を原告が決済することで、上野商事から原告が本登記手続をすることの承諾をとりつけた。その決済の方法として、原告と上野商事は、原告が上野商事に対していた債権と金三、〇〇〇万円の範囲でその対当額で相殺することを合意した。

(6) 原告は、阪口巧に対しては、前記抵当債権金一、〇〇〇万円を弁済した。

(7) 阪口巧は、本訴の相被告として原告から訴求されたが、口頭弁論期日に出頭しなかつたので、清算金支払いの抗弁がないまま敗訴の判決(弁論終結は昭和四四年八月八日)を受けたが、それは、原告と阪口巧との間で原告が阪口巧に金一、〇〇〇万円を弁済することの合意があり、既にその履行がすんでいたからである。

上野商事も同様本訴の相被告として原告から訴求されながら、口頭弁論期日に出頭しなかつたが、その理由は、阪口巧と同様である。

(二)  以上認定の事実からすると、原告は、本登記手続をするのに必要な承諾を得るため、後順位担保権者である上野商事、阪口巧に対し、訴訟外で任意に清算し、その清算金の趣旨で、上野商事と金三、〇〇〇万円の相殺の合意をし、阪口巧には金一、〇〇〇万円を弁済したとしなければならない。

(三)  仮登記権利者は、清算金支払義務者として、目的物の価額から自己の債権額を控除した残額を、清算金とし、最判昭和四九年一〇月二三日民集二八巻一四七三頁による判例変更前は後順位担保権者あるいは担保提供者に、判例変更後は担保提供者に交付すれば足りるとするのが、判例法の立場である。それは、もともと、仮登記権利者は、債権担保の目的で仮登記制度を利用しているのであるから、仮登記権利者に、清算義務を課するのが衡平に合致するからである。従つて、仮登記権利者と後順位担保権者とが、この趣旨にそつて訴訟外で私的清算をすることはなんら妨げないといわなければならない。なぜなら、この清算は必ず訴訟内でしなければならないという必然的理由が見出だせないからである。

ところで、本件では、仮登記権利者である原告が、当時の判例法に従い、後順位担保権者である上野商事と阪口巧に対し任意な私的清算を遂げたもので、この限りでは当時の判例法の要求する清算をしたものといえるのであつて、この法律関係は、最高裁の判例法の変更によつて影響を受けないとしなければならない。

(四)  ところで、本件建物の昭和四八年一一月三〇日現在の時価が金三、一六六万六、〇〇〇円であることが〈証拠〉によつて認められ、この認定に反する証拠はない。そうすると、原告が上野商事と阪口巧に対し清算した昭和四五年ごろの本件建物の時価は、原告、上野商事、阪口巧の被担保債権の合計額金四、三五〇万円を超えないものと推認されるから、原告が、このうえ更に、上野商事と阪口巧に劣後する債権者である被告菱光に対しては勿論のこと、担保提供者である被告宮下に対し、支払うべき清算金は皆無である。

(五)  以上の次第で、被告らの抗弁は採用しない。

三原告の被告らに対する本訴請求は理由があるから認容する。

第二反訴請求についての判断

本訴請求の理由で判断したとおり、被告菱光が直接原告に対して清算金の支払いを求めることが許される判例法上の根拠がないし、原告は、私的に適法に清算をすませたから、被告宮下に対して清算金を交付する必要がない。従つて、反訴請求はこの点で失当として棄却を免れない。

第三むすび

原告の本訴請求を認容し、被告菱光の反訴請求を棄却し、民訴法八九条、九三条、九四条に従い主文のとおり判決する。

(古崎慶長 下村浩蔵 春日通良)

物件目録〈略〉

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